役員同士の対立で会社が止まる?中小企業が最初に見直すべき「仕組み」とは

こんにちは。八王子市の「感情を翻訳する行政書士」伊橋です。

「専務と常務が対立していて、社内の雰囲気が最悪なんです。」

行政書士として経営者の方からご相談を受ける中で、このようなお話は決して珍しくありません。

多くの経営者は、「人間関係が悪いから話し合えば解決するのではないか」と考えます。しかし実際には、役員同士の対立は単なる感情の問題ではなく、会社の仕組みに原因があるケースが少なくありません。

今回は、中小企業で実際によく見られる「役員対立」をテーマに、会社を守るために最初に何を優先すべきなのかを、経営の視点から分かりやすく「感情翻訳家行政書士」が解説します。

ケース紹介|売上重視の専務と利益重視の常務が対立

ある食品卸売会社では、営業を統括する専務と、管理部門を統括する常務が激しく対立していました。

専務は、「売上を伸ばさなければ会社は成長しない」と考え、値引きや短納期対応を積極的に進めます。

一方、常務は、「利益が残らない仕事を増やしても会社は疲弊するだけ」として、値引きや特別対応に慎重な姿勢を崩しません。

どちらの考え方にも一定の合理性があります。

しかし、社長が明確な判断基準を示さなかったため、現場では次のような問題が起き始めました。

・営業担当者ごとに顧客への説明が違う
・管理部門が営業案件を止める
・物流部が誰の指示を優先すべきか分からない
・若手管理職が発言を控えるようになる
・退職者が増え始める

さらに、大口顧客からは「担当者によって話が違う」と指摘され、金融機関からも経営体制への不安を尋ねられるようになりました。

このような状況になると、問題は役員同士だけでは済みません。会社全体の信用に影響が及び始めます。

本当の問題は「誰が悪いか」ではない

このようなケースでは、専務が悪い、常務が悪いという結論を急ぎたくなります。

しかし私は、この問題の本質は「役員個人」ではなく「経営の仕組み」にあると考えます。

例えば、次のようなルールが曖昧になっていないでしょうか。

・どこまでが営業判断なのか
・利益率を下回る値引きは誰が承認するのか
・特別対応は誰が最終判断するのか
・役員間で意見が割れた場合は誰が決めるのか

これらが決まっていなければ、どれほど優秀な役員がいても対立は繰り返されます。

つまり、人を替えても仕組みを替えなければ、同じ問題が再発する可能性が高いのです。

社長がやってはいけない対応

①「時間が解決する」と考える

役員同士の対立は、時間が経てば自然に解決することもあります。しかし、多くの場合は対立が固定化し、社内に派閥が生まれます。

現場の社員は、「どちらにつけばよいのか」を気にするようになり、本来の仕事に集中できなくなります。

② どちらか一方だけを更迭する

一見すると最も早い解決策に見えます。

しかし、対立の原因が制度や権限の曖昧さにある場合、人だけを入れ替えても根本的な解決にはなりません。

新しい役員との間で、同じ問題が繰り返される可能性があります。

③ 社長が毎回調整役になる

中小企業では非常によく見られる対応です。

しかし、すべての案件を社長が調整し続ける状態では、会社は社長しか判断できない組織になってしまいます。

結果として意思決定が遅れ、組織として成長しにくくなります。

最初に取り組むべきことは「仕組みづくり」

では、何を最初に行うべきなのでしょうか。

私は、次の4つを優先するべきだと考えます。

① 権限と責任を明文化する

営業部門、管理部門、社長の役割を明確にします。

誰が決めるのかが分かれば、不要な対立は大幅に減ります。

② 決裁基準を統一する

値引き率、利益率、特別対応などについて、判断基準を文書化します。

担当者によって対応が変わる状態を防ぐことができます。

③ 経営会議のルールを整備する

意見が対立した場合の議論の進め方や、最終決定の方法を決めておくことが重要です。

会議は「勝ち負け」を決める場ではなく、「会社としての最適解」を導く場であるべきです。

④ 共通の評価指標を設定する

売上だけ、利益だけという評価では対立が生まれやすくなります。

売上、利益率、顧客満足度、クレーム件数、在庫回転率などを組み合わせた評価にすることで、役員が同じ方向を向きやすくなります。

現場への影響を軽く考えてはいけない

役員同士の対立は、経営陣だけの問題ではありません。

最も大きな影響を受けるのは現場の社員です。

指示が二転三転すれば、社員は「どうせ決まらない」と考え、自ら判断しなくなります。

また、優秀な社員ほど将来に不安を感じ、転職を検討する傾向があります。

さらに、顧客は社内事情を知らなくても、「会社として意思統一ができていない」という印象を受け取ります。

取引先や金融機関も、数字だけでなく経営体制の安定性を見ています。

そのため、役員対立は放置するほど会社全体の信用を失うリスクが高まります。

感情を翻訳する行政書士として私が最初に確認すること

このようなご相談を受けた場合、私はまず次の点を確認します。

・役員ごとの権限は文書化されているか
・決裁基準は存在するか
・経営会議は定期的に開催されているか
・議事録は残されているか
・社長が最終判断を行う基準は明確か
・現場管理職は誰の指示を優先しているか
・退職理由に共通点はないか
・顧客からのクレーム内容は何か
・金融機関からどのような質問を受けているか
・役員間で共有されている経営目標は何か

これらを整理することで、感情論ではなく、事実に基づいて課題を把握することができます。

まとめ|会社を守るのは「人」ではなく「仕組み」

役員同士の対立が起きると、「どちらが正しいか」を考えたくなります。

しかし、経営で本当に重要なのは、「誰が勝つか」ではありません。

会社として一貫した意思決定ができる状態をつくることです。

人間関係だけに目を向けるのではなく、権限、責任、評価、会議運営といった仕組みを整えることで、組織は安定し、現場も安心して力を発揮できるようになります。

私は、この問題の本質は役員同士の相性ではなく、「会社の意思決定のルールが整備されているかどうか」にあると考えます。

重要なのは、誰が正しいかではなく、会社を守れるかです。

感情に流されず、まずは仕組みを整えること。それが、中小企業が持続的に成長するための最初の一歩ではないでしょうか。

 


※免責事項
本記事は一般的な経営課題について解説したものであり、特定の事案に対する法的判断や経営判断を示すものではありません。実際の対応は、会社の実情や契約内容、関係法令などを踏まえて個別に検討する必要があります。